劇場法~文化芸術を創造し享受することが人々の生まれながらの権利である

「劇場法について話してほしい」そう知人から求められた。

「えっ、劇情報?はあ、劇場法。そんな法律があるんだねえ、知らなかったなあ。調べてみるよ」そう答えた。

 

知人は歌というか声楽というかオペラというか、音楽を若い人におしえている。プロデビューを目指してレッスンをかさねる、その発表会が2日後に。「そこで話してやってよ」と。

 

つけ焼刃で調べてみた。おもしろいねえ。

 

劇場法というのは「劇場、音楽堂等の活性化に関する法律」というのが正式名称。公布施行は平成24年6月27日とある。その16条には、文部科学大臣が指針を定めて公表するとある。「劇場、音楽堂等の事業の活性化のための取組に関する指針」である。いわゆる運用指針だな。指針を作り変更するにはあらかじめ「劇場、音楽堂等関係者の意見を聴く」と定める。まあお定まりのコース。

 

この指針は平成25年3月29日にできている。文部科学省告示第60号というのがそれ。

 

そこでは「運営方針の明確化(創造性、企画性、特色ある事業、利用者等のニーズ)」、「質の高い事業の実施(利用者等のニーズ、創造性、企画性)」、「長期的な視点」、「評価結果」、「専門的人材育成」、「専門的知見の集積と提供」、「大学等を含む専門機関との連携」、「普及啓発」、「国際交流」、「調査研究」、「経営の安定化」、「安全管理」、「指定管理者制度」などの項目に言及している。

 

「ふーん、行政がやたらと芸術や文化に口出しするのは好きじゃないなあ」「行政の言う『質の高い事業』というのは、芸術・文化の自主性、独自性、先見性などと矛盾するよな」などとひとり言ちたり。また「こんな法律や指針を理由に劇場や音楽堂の使用を制限してきたら、裁判してやる。」と意気込んだり。

 

ただこの法律と指針には、前文や基本方針があった。これからが救い。

 

「劇場、音楽堂等は、文化芸術を承継し、創造し、及び発信する場であり、人々が集い、人々に感動と希望をもたらし、人々の創造性を育み、人々が共に生きる絆を形成するための地域の文化拠点である。また、劇場、音楽堂等は、個人の年齢若しくは性別又は個人を取り巻く社会的状況等にかかわりなく、全ての国民が、潤いと誇りを感じることのできる心豊かな生活を実現するための場として機能しなくてはならない」そう掲げる。

 

実はこの法律を生みだした母法があった。「文化芸術振興基本法」だ。平成13年12月7日の公布施行とある。この法律第7条は、政府に基本方針を定めることを義務づけた。義務付けに従って政府は、第1次から第3次までの基本方針を閣議決定してきた。平成23年2月8日に閣議決定した第3次基本方針は6つの戦略を定め、その戦略1の4項目目に「劇場、音楽堂等の法的基盤の整備について」を定める。これが劇場法のルーツである。

 

文化芸術振興基本法はその基本理念で「文化芸術の振興に当たっては、文化芸術活動を行う者の自主性が十分に尊重されなければならない」、「文化芸術活動を行う者の創造性が十分に尊重されるとともに、その地位の向上が図られ、その能力が十分に発揮されるよう考慮されなければならない」としている。

 

続けて冒頭の言葉だ。「文化芸術を創造し、享受することが人々の生まれながらの権利であることにかんがみ、国民がその居住する地域にかかわらず等しく、文化芸術を鑑賞し、これに参加し、又はこれを創造することができるような環境の整備が図られなければならない」と定める。

 

意味は、すべての人々には、文化芸術を創造し享受する機会を等しく与えられる権利があり、この権利は天賦人権、基本的人権であること確認して、法律や政策によって、人々にすべからく保障しなければならないことを政府に命令したということ。

 

うーん現実の政策は貧しい。人間の基本的人権として、文化・芸術を愛でる権利を等しく保障するにふさわしい環境はない。その道は遠く厳しい。道は遠く厳しいが、私たちは国や自治体の尻を叩きながら、ともに、達成しなければならない道だ。

 

発表会の歌声はみんなとてもよく響いた。マイクなしの生唱。個性のあるのびやかな歌声に満ちた。

 

 

 

 


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